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柳澤管楽器株式会社(板橋区)

業種 : その他
作成日: 平成28年3月8日
更新日: 平成29年4月18日
柳澤管楽器株式会社 柳澤信成代表取締役社長
 管楽器「サクソフォーン」は、一般的には「サックス」の名で知られています。クラシック、ポップス、ロック、ジャズなど多ジャンルの音楽で用いられており、吹奏楽やビッグバンドにも欠かせない存在です。そんなサクソフォーンには「世界三大メーカー」と評される御三家があり、そのうち2社が日本にあることをご存じでしょうか。ここでご紹介するのはその一角を成す柳澤管楽器株式会社です。職人の手仕事から生み出される独特の豊かな音色は、世界中のプレイヤーから厚い信頼を集めています。同社で三代目を務める柳澤信成社長にお話をうかがいました。

日本におけるサクソフォーンづくりのパイオニアとして

原材料のBronze(写真手前)とBrass(写真奥)。約30mのロール状に束ねられてストックされている
 サクソフォーンは約170年前、ベルギー人のアドルフ・サックス氏が発明しました。日本製のサクソフォーンは、戦前よりつくられていましたが、輸入品と比べると子供のおもちゃのような物でした。世界で肩を並べられる物をつくりたいと柳澤社長の父、故・孝信氏が1951年(昭和26年)につくり始めたのです。
 サクソフォーンを含む管楽器製造にまで範囲を広げると、日本でのルーツは柳澤社長の祖父で飾り職人だった徳太郎氏が、1894年(明治27年)に軍が輸入した軍楽隊用の楽器を修理したことが起こりといわれています。つまり、柳澤家は日本の管楽器、サクソフォーンづくりのパイオニアというわけです。
 「当初のサクソフォーン製造は外国製品のコピーから始まりました。やがてカタチとしては似た楽器をつくることはできましたが、肝心の音は率直に言って稚拙であり、とても満足のいく品質は得られなかった。その後、試行錯誤を重ねて、ようやく楽器らしくなったのは20年くらい前からだと思っています」
 その頃からフランスのセルマーに並び、日本のヤマハ、そして柳澤管楽器は世界の三大サクソフォーンメーカーに数えられるようになりました。この成長の背景には何があったのでしょうか。

厚い地金と音の鳴りやすい構造の両立が世界的評価の背景

数種類のヘラを使い分けながら回転している管体に押し当て、機械ではできない部分を成形
 「25年以上前になりますが、当社のサクソフォーンは主に日本の学生の練習用楽器として購入されることが多かった。そこで販路を広げようと欧米の市場開拓に取り組みました。その時に気が付いたのが、外国人は日本人に比べてプレイヤーの体力が高く、しかも自己中心的な演奏をする傾向が強かったこと。対して日本人は体力差もありますが、小さな音であり、しかし、しっかりとした感情表現ができるプレイヤーが多かった。私たちはそれまでほとんど日本人を対象にサックスをつくっていたため素材の地金は薄くして音を鳴りやすくしていたのですが、それでは海外のプレイヤーには向いていないことが分かったのです。ではどうすればいいか。そこで地金を従来に比べて厚くしつつ、これまでどおりに鳴りやすく、プレイヤーが感情を表現しやすいサックスを追求しました」
 つまり、厚めの地金を使いながら、音が鳴りやすい構造を実現するという、相反する要素の両立を目指したというわけです。これを境に柳澤管楽器のサクソフォーンは徐々に評判を高め、日本~世界でのシェアを広めていきました。

愛情を込めた職人の手作業で独自の技術を確立

約400℃の熱で管体にポスト(支柱)をハンダ付けしていく
 また、柳澤管楽器が世界的メーカーになった理由としては、全工程が手作りであり、なおかつ、携わるすべての職人がひとつひとつの工程に「良い楽器になれよ」という愛情を込めていることも欠かせません。
「楽器づくりはカタチをつくるのではなく、音を創造する作業です。楽器は生き物であり、製作者の愛情が伴わなければ形骸化した単なる工業製品になってしまうでしょう」
 さらに、もっと良い楽器をつくりたいという職人としての本能と旺盛な好奇心によって、独自のサクソフォーンづくりに取り組んできたことも柳澤管楽器の特徴です。
「例えば1979年(昭和54年)に発売した日本初の“カーブド・ソプラノ・サクソフォーン”です。カーブド~は、元々イタリアでつくられていたものですが音が悪く、ほぼ楽器としての体はなしていませんでした。でも我々なら良いものがつくれるのではと考え、研究、開発したのです。また、1985年(昭和60年)には世界初となるネック部分が着脱できる“デタッチャブルネックのソプラノ・サクソフォーン”をつくることにも成功しました」
 加えて、素材にブロンズを採用したり、表面にピンクゴールドのメッキを施し、柔らかくマイルドな響きのサクソフォーンをつくったのも同社独自の試みです。
「おもしろい、あるいはこれは良いモノになりそうだと思ったらまず試作して、実際に優れた楽器ができたら、その作り方を残すために設計図を描きます。通常は逆ですし、大手なら稟議書も必要でしょうが、私たちは良いと思ったことは何はともあれ実践するスタイルなのです」

最先端のプレイヤーと音が集まる東京でなければつくれない

楽器にキズを付けないようにプロテクトテープを貼って組み立てていきます。この後、最終検査にまわる
 「東京が日本の流行発信地であるのは誰もが認めるところ。それはサクソフォーンの世界でも同じです。クラシック、ポップス、ロック、ジャズなどの優れたプレイヤーが集まりますし、彼らの素晴らしい演奏を体験できるコンサートやライブの機会も多いですからね。サクソフォーンづくりの職人であれば、やはりそうした場所に身を置くべき。この環境こそが、当社が都内に立地していることで預かれる最大の恩恵だと思っています」
 ちなみに柳澤管楽器の社名は、サクソフォーンを完成させたあかつきに、それ以外のさまざまな楽器づくりに取り組みたいという想いから名づけられているそうです。
 「ただ、サクソフォーンは歴史が浅い楽器だけに、改良、進化の余地はまだ多く残っています。この先もしばらくは、今まで同様サクソフォーン一筋でつくり続ける事になるでしょうね」
柳澤管楽器株式会社
東京都板橋区小豆沢2-29-5
03-3966-9501
http://www.yanagisawasax.co.jp/
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