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有限会社安久工機(大田区)

業種 : 環境・医療・福祉
作成日: 平成28年2月15日
更新日: 平成29年4月18日
有限会社安久工機 田中隆代表取締役社長。2011年には人工心臓の研究で早稲田大学大学院で博士号を取得。現在、同大の理工学総合研究センター招聘研究員も務めている
有限会社安久工機(大田区)
 「日本の人工心臓研究・開発に大いに貢献している大田区の町工場」——世界的に知られる高い技術力をもつ中小企業が集まる大田区の中でも、安久工機はこのような独自の存在感を示しています。「世の中になかったものをつくり出す」をスローガンに、人工心臓をはじめとする医療機器から視覚障がい者用の筆記具まで多様な製品を世に送り出してきました。何故そうした幅広い分野で実績を残しているのでしょうか。同社の田中隆社長にお話をうかがいました。

30年以上にわたって医療機器の設計、開発に携わる

父の文夫氏から親子二代にわたって改良を重ねて開発した「機械式血液循環シミュレータ」。これが完成したことで動物実験の数を大幅に減らすこともできたという
 安久工機は、田中社長の父、故・文夫氏が故郷の宮崎県都城市安久町(安久工機の社名は文夫氏の出身地に由来する)から上京し、大田区の町工場を経て、1969年(昭和44年)に起業しました。文夫氏は自身が独立する以前に知り合い、後に早稲田大学理工学部教授となった、故・土屋喜一氏の要請で人工心臓の開発プロジェクトに参加しました。これは現在、田中社長が継承している人工臓器の研究、開発のルーツとなっています。
 「私は東京農工大学大学院機械工学修士課程を修了後、大阪の国立循環器病センター研究所の補助研究員となり、主に人工心臓の開発に携わりました。その後、1986年に安久工機に入社し、以降、東京女子医大や早稲田大学との産学連携で医療系機器、機具等の開発にも従事しています」
 田中社長は大学院卒業後、30年以上にわたる医療機器の設計、開発に携わってきました。長年培った技術が凝縮されているのが、2011年に完成した「大動脈弁形成術のための弁尖寸法測定用器具・Ozサイザー」です。

警察の「困った」に着想を得て開発した“折り畳み式カラーコーン”

「大動脈弁形成術のための弁尖寸法測定用器具・Ozサイザー」の仕組みを説明する田中隆代表取締役社長
 「これは患者自身の心膜を利用して心臓の大動脈弁を形成する手術で、一人一人で異なる大動脈弁尖のサイズを計測するための器具です。術式を開発した東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科の尾﨑重之教授の指導の下、平成19年に設計、試作を開始しました」
 「自己心膜による大動脈弁形成術」はそれまで使われていた人工弁と違って生体適合性に優れる、従来品に比べて経済的、そして何より患者の体格に合ったサイズの最適な弁をつくることができるなど、日本の心臓外科の歴史に新たな進歩をもたらしました。これらの点が評価され、Ozサイザーは第23回大田区中小企業新製品・新技術コンクールの優秀賞を受賞しています。
 また、医療分野にとどまらず、他分野のモノづくりにも積極的に取り組み、高い成果を得ているのが安久工機の真骨頂です。
 そのひとつに挙げられるのが、1995年に生まれた折り畳み式のカラーコーン「パタコーン」です。従来の円錐型コーンはかさばるため、警察が一度に多くの量を積み込めないと困っているらしい、との情報を営業部長で弟の田中務氏が聞きつけたところから研究が始まりました。5年にわたって開発を重ねた結果、三角錐型でスプリングで開閉でき、畳むと平らでコンパクトになる仕組みが完成しました。特許を取得し、1997年には警察装備資機材開発改善コンクールで警察庁長官官房長賞を受賞しました。これまでに出荷数4万本を超えるヒット商品となっています。

盲学校教諭の熱意に打たれ、視覚障がい者用の筆記具を開発

視覚障がい者用の筆記具「ラピコ」。普及のために仕事の合間を縫って全国でワークショップも展開している
 2012年に発売した視覚障がい者用の筆記具「ラピコ」も、安久工機の高い技術力とモノづくり精神を象徴する製品のひとつです。誕生のきっかけは、香川県立盲学校の栗田晃宜教諭が、視覚障がい者が使える絵筆があれば…と製品化を成し遂げてくれそうな中小企業にメールでコンタクトを取ったことでした。そのうちの1社が在大田区の企業で安久工機と懇意にしており「安久さんなら作れるのでは」と話をもちかけたそうです。
 栗田教諭の熱意に心を動かされた田中社長は開発に8年の月日を費やし、試行錯誤を重ねました。最終的に形状記憶合金をペン先に使用し、胴体にバルブを仕込んでペン先を押すと、インクの代わりとなる蜜蝋(ろう)がしみ出る仕組みをつくることに成功しました。約15秒で硬化し、蜜蝋が盛り上がるので、視覚障がい者が手でなぞって確認することができるのです。
 「また、独特の質感、筆致からアートとして表現する目的で芸術家が使ったり、ろうけつ染めの筆代わりに使うなど可能性が広がっています。こうした点も評価され、2012年には東京都から「福祉のまちづくり功労者」として知事感謝状を授与されました」

地元大田区の中小企業ネットワークは大切な“宝”

父の代から使っている旋盤や部品が所狭しと並ぶ。安久工機のモノづくりの源となる場所
 安久工機の多分野にわたるモノづくりを支えているのは、田中社長の斬新なアイデア、ノウハウもさることながら、地元大田区の約50社を越える中小企業のネットワークが不可欠です。部品加工は父の代から協働している仲間の企業に発注し、最終的な組み立てを自社で担当しています。いわば「コーディネーター型企業」です。
 「東京、さらにいえば世界的にも優れた技術を擁する企業が密集している大田区は、当社がモノづくりを続けるために不可欠な環境です。父は生前、常日頃から『協力してくれる会社の皆さんはウチの宝』と話していました。もちろん私もその思いを受け継いでいるからこそ、安久工機の今があると思っています。これからも不可能を可能にする、さまざまな分野のモノづくりに挑んでいきます」
有限会社安久工機
東京都大田区下丸子2-25-4
TEL 03-3758-3727
http://www.yasuhisa.co.jp/
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