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フォーカス2017
TOKYOを拠点としてIoTやAIなど先端テクノロジーを駆使するキーパーソン

AI、IoTと人間の理想的な距離感

作成日: 平成30年3月22日
更新日: 平成30年3月22日
国立研究開発法人産業技術総合研究所・<br/>
人間情報研究部門長<br/>
工学博士<br/>
持丸正明氏

国立研究開発法人産業技術総合研究所・
人間情報研究部門長
工学博士
持丸正明氏

 「AIとIoTはほとんどの企業にとって道具に過ぎません。ただ導入すればよいというのではなく、そこから創造するものに価値がある。そこでキーワードになるのはデータとサービスです」と話すのは、製品やサービスの人間的合成を評価するデジタルヒューマン技術を研究する、工学博士の持丸正明氏。「私は人を専門に研究していますから、AIやIoTをやや俯瞰して眺めています」と語る持丸氏が考える、人間とAI、IoTとの理想的な関係とは?

データは量ではなく深さにこだわることでステイクホルダーを目指す

 「今やIoT化によって莫大なデータが容易に手に入る時代となりました。データ量での勝負となれば、キャピタルに限界のある中小企業は圧倒的に不利です。ただ、データには2種類ある。量が勝負のビッグデータと、深く掘り下げたディープデータです。中小企業はディープデータを集積する道を考えるとよいでしょう」と持丸氏。

 ディープデータとは、実験室でとるデータのように、数は限られていても、項目が多彩であったり、精度が高く、インターネットや書籍では得ることができないものを指します。「私たちの研究室では、歩行時に全身の筋肉がどのように動くかというデータをとっています。そこに年齢に応じた歩数や活動量といったビッグデータをマッチングさせると、転倒リスク、背筋ののび、筋肉をどれくらい使っているかが全部わかります。ビッグデータだけを持っていても"どうしたら高齢者が転倒しませんか?”という問いには答えられない。ビジネスにつなげるためにはディープデータが不可欠です」。

 大企業が広大な敷地であるビッグデータを持つなら、中小企業はディープデータという杭を握り、ステイクホルダー[注1]となることで、ビジネスを有利に展開していくことができると持丸氏は指摘します。

ディープデータ×ビッグデータの図

サービス業界においてIoTやAIをどの場面で用いるべきか

 AIやIoTを用いれば、人件費の削減につながるという考えから、サービス業界は導入に積極的です。ただしその使い方には注意すべき点があると持丸氏。「AIやIoTによりさまざまなプロセスを自動化し、コストを下げる。これは安い労働力を投入して価格を下げてきた、これまでのパターンと変わらない"いつか来た道"です」。

 では、AIやIoTをどの場面で活かすのか。それは価値が生まれるのがどこかに関わってきます。「飲食店では"これおいしいね"と語り合うとき。旅館では仲居さんからお料理の説明を聞いて"すばらしい"と感動するときに価値が生まれます。そこを譲り渡してはいけない。AIやIoTを活用すべきはバックヤードであり、生じた余力をホスピタリティとして、対人サービスに注ぐのが賢明です。むしろ、同じ場面でも、お客さんの声、ニーズといったインタラクション(相互作用)の知識化において、AIやIoTはその力を発揮することが期待できます」。

価値観の多様化に合わせた仕掛けを

 現在の持丸氏の研究テーマについて伺いました。「今夢中になっているのは、健康へのモチベーションをいかに高めるかという研究です。多くの健康サービスは「1日1万歩歩こう」という指標を示し、達成感を味わってもらうことでモチベーションを高めようとしています。ところが、健康になることだけを目指して、運動を継続できる人は3割程度であることがわかっています。どんな仕掛けをすれば運動するのでしょう。私が考えるのはまず"共感"です。友人と山登りやテニスの喜びを分かち合うことが楽しいと感じる人たちはたくさんいます。もうひとつは"社会的認知"。インスタグラム系の人というとわかりやすいでしょうか。人から"いいね"をもらうことが彼らモチベーションになるわけです」。

 直球過ぎるメッセージには限界があると持丸氏。

「人々の価値観が多様化する現代社会において、動機付けには創意工夫が必要です。進んで使いたくなるような“使用価値”をIoTやAIによって高めることで、みんな知らぬ間に健康になれる。そんな仕掛けを考えています」。

使用価値の図

[注1] ステイクホルダー:企業・行政・NPO等の利害と行動に直接・間接的な利害関係を有する者を指す。

略歴=専門は人間工学、バイオメカニクス。工学技術院生命工学工業技術研究所入所より、産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センター副センター長、同研究所デジタルヒューマン工学研究センター長などを歴任。現在、同所人間情報研究部門長。共著に『人体を測る—寸法・形状・運動』(東京電機大学出版局)など。そのほか、テレビのバラエティ番組などにも出演し、専門分野について楽しい切り口で解説している。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
http://www.aist.go.jp/

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