産業立地ナビTOKYO

トップページ フォーカス フォーカス2016 高速ビジョンで「知能を持った社会」を目指す—潜んだニーズの発見が重要に

フォーカス2016
TOKYO発の”テクノロジー”と”人”を育てるキーパーソン

高速ビジョンで「知能を持った社会」を目指す—潜んだニーズの発見が重要に

作成日: 平成29年4月20日
更新日: 平成29年4月20日
東京大学  <br/>
情報理工学系研究科長、教授 <br/>
石川 正俊 氏

東京大学 
情報理工学系研究科長、教授
石川 正俊 氏

 人とロボットがじゃんけんをした時に、必ずロボットが勝つ。東京大学の石川正俊教授は、そんな「必勝のじゃんけんロボット」を開発したことで、高速のセンサーに基づいてロボットをできる限り高速で動かす「知能ロボット」の可能性を分かりやすく世界に発信しました。「必勝のじゃんけんロボット」の"目の部分"にあたるセンサー技術や画像処理技術は、多方面への産業応用の可能性を秘めています。こうした大学の知を生かした産学連携や大学発ベンチャー創出の制度設計にも携われてこられた石川先生に、科学技術が創出する未来、そして東京の可能性についてお話をうかがいました。

高速ビジョンの開発と普及を目指す

百戦百勝のじゃんけんロボット 百戦百勝のじゃんけんロボット

-高速ビジョンセンサーが人間の手の動きを素早く察知することで、後出しでないのに必ずロボットがじゃんけんに勝ってしまうというジャンケンロボットを題材に、取り組んでいる研究テーマについて教えてください。

 じゃんけんロボットは、30分の1秒より短い時間の後出しでグー、チョキ、パーを出すロボットです。人間の目は1秒間に30コマ程度の認識が精いっぱいなため、後出しとは分からず、ロボットが100戦100勝となるのです。このジャンケンロボットのように、人間とは別の次元で認識し処理することが可能な高速ビジョンの開発と普及が、われわれの目指しているものです。

-高速ビジョンは何をどう変えるのですか。

 人間の知覚や作業のスピードをはるかに超えるロボットが誕生させることができます。高速ロボットの誕生により、人の手による労働集約型の作業をロボットが代替する流れがさらに加速されます。そのため、人件費の安さが重視されるような産業立地のあり方は大きく変わっていくと思います。また、今後は、労働集約的な仕事に関わっている人が、設計、メンテナンス、モニタリングといった知識集約型の仕事に就くようにもなっていくと思います。

化学反応を起こさせるような仲介役が必要

-ベンチャー企業との関わりも深い石川先生ですが、ベンチャーにとって、東京は恵まれた環境と言えるのでしょうか。

 人もアイデアも集まり、クラスターが形成されていて、ベンチャーを興すのに便利な場所であるのは間違いないでしょう。ただ、さまざまな施設や出会いの場があっても、仲立ちして化学反応を起こすような役割を果たすファシリテーター(仲介者)やディレクターがいなければ、なかなか活性化しないので、そういった人材の輩出が今後の課題なのではないでしょうか。

潜在ニーズに目を向ける必要も

-これからの科学技術の事業化に関して、社会に潜んでいる潜在ニーズに目を向けることの重要性を説いていますね。

 POC(proof of concept=概念実証)という言葉があります。新たな概念や理論の実現可能性を検証するといったもので、潜在ニーズを顕在化させるのに欠かせないのがPOCです。何かのモノマネあるいは課題解決型ではなく、『あったらいいな』への挑戦には、POCのプロセスが必要ですが、そこにはリスクがつきまとうので、リスクヘッジの社会構造が大切になります。例えば、ベンチャー企業と大学がタッグを組んで事に当たるのを応援する仕組みは、ベンチャー企業のリスクヘッジにつながると思います。

-ロボットの知能を司るAI(人工知能)についてはどう見ていますか。

 掃除ロボットのルンバを創ったアイロボットの創業者、ロドニー・ブルックスが「象はチェスをしない」という言葉で、二つのAIを説明しています。それまで、AIというのはチェスのチャンピオンに勝つことを目指すようなロジックだけのAIの研究が主流でした。一方、象はチェスをしないけど人間とコミュニケーションがとれる、十分知的な生き物です。そういう象のような存在を創るAIもあるということです。象が表すのは、リアルワールドに関わる、例えば自動運転の類いのAIです。私たちが取り組んでいるのは象のAIの方で、両者を区別するため、AIではなく、知能システムや認識行動システムと呼んだりしています。これは、日本の得意領域といえ、第4次産業革命[注1]やSociety5.0[注2]ともつながる大きな可能性を持つ分野だと実感しながら、研究開発を進めているところです。

東京は総合力でトップを目指せ

-最後に、ロボットやセンサーの研究者として、東京という地をどう捉えていますか。

 先端のイメージセンサー、ロボット、処理技術などが集積し、世界の中でも総合力でトップに立つのが東京だと思っています。その地で、センサー、カメラ、ディスプレイをネットワーク化し、車の無人運転、災害対策、犯罪防止をはじめ、安全安心で"知能を持った社会"を、まず、特区の実証実験を手始めにして広めていきたいですね。東京五輪に向けた社会インフラの整備にもつながっていくと思います。

[注1] あらゆるモノがインターネットとつながり、モノに取り付けられた各種センサーを通して、相互コミュニケーションが可能となり、工場のネットワーク化をはじめ、モノ、サービス、データのみならず、様々な経営資源が互いに繋がることを意味する。ドイツの産業政策であるインダストリー4.0(Industrie 4.0)から、本概念が急速に広まった。

(参考)
○【60秒解説】第4次産業革命(経済産業省Webサイトより)
○IoT/インダストリー4.0(第4次産業革命)が日本のものづくりに与えるインパクト(経済産業研究所Webサイトより)

[注2]平成29年1月に政府が閣議決定した第5期科学技術基本計画の柱のひとつ。ICTを最大限に活用し、サイバー空間と現実世界が高度に融合した未来社会(超スマート社会)を描いている点において、製造業の「スマート化」に焦点をあてた「インダストリー4.0」と一線を画している。

(参考)
○「第5期科学技術基本計画」(内閣府Webサイトより)

略歴=東京大学大学院計数工学専門課程修了後、通商産業省工業技術院(現:産業技術総合研究所)を経て、東大助教授から教授に。東大総長特任補佐や理事・副学長も歴任。「五感」を工学的に実現するためのセンサーフュージョン技術をはじめ、ロボット関連技術の研究開発に長年取り組んでいる。産学連携の活動にも力を入れ、「高速ビジョン」を産業界各方面に広く普及・実用化させつつある。
東京大学 石川渡辺研究室
http://www.k2.t.u-tokyo.ac.jp/index-j.html

フォーカス2016の他の記事を見る

高速ビジョンで「知能を持った社会」を目指す—潜んだニーズの発見が重要に
東京大学 情報理工学系研究科長、教授 石川 正俊 氏
人に役立つものを創るのが本懐—高齢化で膨らむニーズに応える
東京理科大学工学部 教授 小林 宏 氏
ブーム追い風にVR技術をBtoBに生かす—東京五輪も大きなターゲットに
カディンチェ株式会社 代表取締役社長 青木 崇行 氏
中野区発、安全・安心、教育などをキーワードにした地域実証実験のプロジェクト
一般社団法人中野区産業振興推進機構 理事長 (東京大学名誉教授) 板生 清 氏
多様性ある中小企業が都市の魅力をつくる—地域、世界に羽ばたく人材を育成
法政大学経営学部 教授 稲垣 京輔 氏